パワーストーン・アネクドート ~ 読者が体験した貴石のミステリー 第2話
水晶に映った顔(2)

翌日から私は、購入したばかりの水晶球を持って出勤するようになりました。とにかく、いつも肌身離さず持っているのが良い、と霊能者の男性にも言われていたので。「下着のカップの内側にストーンを忍ばせているお客様もいますよ」と店長さんは言っていましたが、さすがにそれは抵抗があったし、球のサイズも適していなかったので、ごくオーソドックスにバッグへ入れて持ち歩きました。
出勤に使っているバックはビジネス用の大きなサイズのものだったので、そこへ水晶球を入れてもとくに外見が膨らんで目立つということもなく、加わった重さも気にならないほどだったので、1~2週間も経つ頃には自分がそれを持ち歩いていること自体、ほとんど意識しなくなっていました。すんなりと馴染んでしまったみたいです。
ただ、今になって思うと、この頃から急に仕事や人間関係が良い方向へ向かっていったような気がします。それが水晶のご利益だったのかどうかは定かではありませんが、職場では周囲の予想を裏切るような形でチーフの肩書きをもらいましたし、一時は険悪だった彼氏との仲も自然に修復されてまた連絡を取り合うようになったし、まさに万事好調という日々が続きました。そして、そんな矢先に事件が起きたんです。
その金曜日の夜は残業でオフィスに居残っていました。内容は企画書の立案で、自宅へ持って帰っても間に合う仕事だったのですが、翌日の午後、仲直りした彼氏が久しぶりに私の部屋へ遊びに来ることになっていたため、面倒なことはそれまでに終わらせてしまおうという意気込みでした。
同室の同僚たちが、歯が抜けるように次々と帰って行く中、夢中でPC画面とのにらめっこを続け、再び気がつくと時刻は午後10時。ビルの警備室からも「そろそろ全館消灯です」との連絡が来たので、まだ仕事は半ばでしたが、ひとまず諦めてノートを閉じました。
その時になぜ、鞄の中の水晶をわざわざ取り出したのかは自分でもよく分かりません。もしかしたら、美しい光の煌めきで仕事の疲れを癒してもらいたいと思ったのかもしれません。ともかく気がつくとビロードの巾着袋から中身を取り出して、デスクのライトにかざしていました。そうしたら……。
「わっ、何、コレ!」驚きの余り、声が漏れました。ほんの瞬間、その透明な球体の中に自分がいる薄暗いオフィスとは全く違う風景が映り込んだような気がしたんです。
(み、見間違い?気持ち悪い……)慌てて落としてしまった水晶をデスクから取り上げて、再びその球面を確認しました。すると、じっと眺めているうちにまたも同じ景色が映り込み、すぐにそれは当時、私が住んでいたマンションの室内であると分かりました。見慣れたファブリックのベッドカバーとサイドテーブル、そして壁に掛かったアンティークの時計、そこに映ったどれもこれもが、そこが私の寝ている寝室であることを示していました。
「ちょっ、ちょっと、何、コレ!」と、またも大声で叫んでしまいました。映り込んだ寝室の空間に、今度はいきなり人影がよぎったんです。さらにその顔が大写しになると、それは見たことのない中年の男でした……。
その後、すぐに退社して帰路に着いたのですが、もちろん胸中は釈然としない思いでいっぱいでした。自分が見たのは疲労が原因の幻覚に過ぎなかったのか?それとも……と、堂々巡りの自問自答を繰り返すうちに、いつしか電車の駅を降りてマンションへ向かっていました。やがて建物のすぐ前まで来て、自然に足が止まりました。先ほど見た謎の男の顔のせいで、とてもそのまま部屋へ帰る気になれませんでした。
そこでいったん道路の向こう側へ渡り、舗道から4階にある私の部屋の窓を見上げてみたんです。すると、まるでこちらが見るのを待ち構えていたかのように、室内のカーテン越しに懐中電灯のものと思われる小さな光源がパッと浮かび、また瞬く間に消えました。(誰かがいる!)そう思うと同時に、スマホを取り出して警察に連絡しました。
数時間後、私は最寄りの警察署で保護されていました。駆けつけてくれた警官が室内へ入ってみると、そこに男が潜んでいたんです。その場ですぐに取り押さえられて事なきを得たのですが、後から聞いた話ではその男は空き巣の常習犯で、とくに1人暮らしの女性に目を付けて留守宅へ侵入し、本人が帰宅すると乱暴まで働くという凶悪な犯罪者でした。
その顔があの時、水晶に映り込んだそれと酷似していたことは言うまでもありません。「今のあなたには水晶の波動が役立ちます」という霊能者の言葉を思い出し、安堵とありがたさで涙が出ました。
紫苑鑑定師からの一言
水晶球を通して未来を映し出す透視技法は古来知られていますが、沢村さんはそれを無意識にやってしまったということでしょうか。元々、霊感の素養がある方とお見受けしますが、良質の水晶波動を絶えず身に受けたことで知らずに霊感が磨かれていたとも言えそうです。パワーストーンと総称される貴石類の中でも、とくに水晶は浄化の働きが強く、それを各種の祈祷や浄霊などに応用する霊能者もいるほどです。いずれにしてもとても不思議なお話で、ご自身もご無事で何よりでした。
